田母神前空幕長の論文問題 2008.11

 田母神前空幕長の論文がマスコミにより批判された。

批判された事柄は、概略以下のようである。

「自衛隊最高幹部級である現職自衛官が、民間団体主催の懸賞論文募集に応募した。この応募論文の内容は昭和戦争に関する政府見解に反しており、又、論文募集に際しては防衛省の内規に定める手続きに拠っていない。これらは、文民統制を乱すものであり批判される行為である。」

 しかしこの批判は、一見尤ものようだが、今ひとつ曖昧であるように思われる。

・通常マスコミは、思想信条の自由や表現の自由について、過剰なまでに敏感に反応するが、今回はこの点からの切り口に欠けているように思われる。

・マスコミは田母神論文を強く非難し、その立場から文民統制を乱すものだと断罪する。

 今回の田母神問題を検討する際は、昭和戦争に関する論文の内容への賛否と、現職自衛官が自らの思想信条・歴史観を発表する行為への当否を、峻別した上で検討するべきと思う。

・論文の内容が怪しからんと感情的に激昂し、問答無用と潰しにかかるのは、あたかも戦前の言論統制の如き感すらする。論文の内容に同意できないときは、その理由・根拠を示して論理的に反論するべきだろう。

 

<批判は相当と認められるか否か>

 

@政府見解と食い違う歴史観を発表する自由は制限されるか

・一般的に、個人の思想信条の自由やその表現の自由を否定する者はいない。たとえ、それが政府の政治的見解と異なっても何ら影響されない。

・田母神氏は現職自衛官のため、ある意味で強い衝撃を与えたが、今回の行為は自衛隊活動の一環としてではなく、あくまで個人としての行為と認められる。

・従って、個人としての同氏の表現の自由を制限するなら、明確な禁止規定が必要ではないか。例えば、「現職自衛官は、その政治的思想信条を、如何なる立場であれ発表してはならない」の如き禁止規定である。(この禁止規定の是非は別として。)

 

A文民統制を乱した行為か

 そもそも文民統制の意味・意義が曖昧で明確な定義がされているのだろうか。一般的に政治の軍事に対する優位を主旨とすると解するが、今回の田母神氏の行為が、この意味での文民統制に反するとは思えない。

・ある概念を表す表現については、得てしてその文言の意味から連想されるイメージによりがちである。戦前天皇機関説が批判されたが、一部の者が「恐れ多くも天皇陛下を機関車に例えるとは怪しからん」と憤ったらしい。

文民統制の「文民」とは背広を着た者とイメージし、軍事担当制服組は文民(背広組)の意向には何事であれ絶対逆らってはならないと解される嫌いがないか。

 

B防衛省内規違反か

 防衛省内規では自衛隊員が職務に関する意見を外部に公表する時には、上司に書類で届け出ることになっているという。その内規の詳細は分からないが、その趣旨を推測すれば、職務として知りえた軍事機密の漏洩を防ぐためではと思われる。田母神氏は、歴史研究の成果として書いたもので、職務に関係していないと反論した。ただ、自作俳句の投稿なら別だろうが、当該論文の微妙な内容から、職務外か否かの確認の意味からも届け出る細心さに欠けたと指摘される。

 

<関連して>

 

C幹部教育

 田母神氏が統幕学校長時代に「歴史観・国家観」の講座を設け、大東亜戦争史観を教育したと指摘された。その内容が定かでないが、仮に田母神氏の個人的見解を自衛隊員教育として講義したのならば、問題と思われる。

統幕学校における自衛隊員教育は、自衛隊活動の一環であり、特定のイデオロギーや現政府見解に反する見解を押し付けることは不当であり許されない。その実態・内容を精査検討するべきである。