Tachi 族の名称の由来が知りたくて,優先的にTachi族の人たちを採用しているカリフォルニアのTachi Palace Hotel and Casino宛てに,2009年12月11日にメールを入れました。下の写真は,そのカジノが併設されているホテルの全景です。



送信した英文メールの内容は,概略次のようなものです。

送信メール:「日本の大学で英語学を教えている舘(Tachi)という姓の者です。なぜあなた達の部族名は,Tachiなのでしょか。お教え願います。」

すぐさま,英文の返信が届きました。興奮に打ち震えながらクリックした返信メールの英文の内容は,おおよそ,以下のようになります。 

返信メール:「このメールは,自動返信です。お問い合わせの件については,いただいたメールを担当者に転送いたします。」

もちろん,これまでに,「担当者」からの返信メールは,ありません。こんな問い合わせを担当する係りの人は,Tachi Palace Hotel and Casinoにいないことは,容易に推測できます。

フィールドワークとしては,最悪の手段を選んでしまったことになります。私が生まれ育った小さな村で,道を歩いている人に「あなた方は,なぜ日本人と呼ばれているのですか」と聞いたのと同じです。この問いに適切に答える人は,極めて少ないはずです。「日本という呼び方と国際的なJapanという呼び方とは,どのように関係するのですか」などと聞けば,解答が可能な人は,そのさらに半分に減ってしまいそうです。

手元にある数冊の書籍に,Tachi族の名称の由来についての記述がないか,探してみました。残念ながら,Tachi族がなぜそのように呼ばれるかを扱った議論を見つけることは,できませんでした。しかし,Kroeber(1961)がこの問題に関する手がかりを与えてくれました。

下の表は,Tachi族がその一つとして属するYokuts大部族の他の部族が「人」の意味で用いる単語のリストです。Kroeber(1961, p.187)から引用したこのリストは,5つの部族(1番~5番)が「人」という意味で,Tachiに近い発音を用いていることを示しています。また,興味深いことに,Yokuts大部族に属する21の部族のうち11の部族(11番~21番)が「人」という意味でYokutsに近い発音を用いていることが分かります。

現時点での私の仮説は,他の部族が「人」の意味で用いる単語がTachi族の部族名となったというものです。しかし,二つの問題が残ります。

(1)Tachi族という名称は,いつ誰が用い始めたのか。
(2)Tachi族の人達は,その名称を受け入れているのか。

もしかすると,西洋人(おそらくは,スペイン人)がTachi族の近くに住む隣の部族に「あれなーに」と尋ねたら,「人」という意味で,「ターチ」と答えたので,Tachi族という名称を作り出したのかもしれません。名づけたのは,西洋人(おそらくは,スペイン人)ということになります。もしそうであれば,部族名としては,せいぜい数百年の歴史しかないことになります。

同じくカリフォルニア州に住むアメリカ先住民族に,Yuki族がいます。この名称は,隣接した地域の部族が用いる「敵」という単語に由来するそうです。Yuki族が好戦的であったために,このように呼ばれるようになったようです。この場合もまた,上の仮説が正しければ,西洋人が「あれなーに」と尋ねたら,「敵」という意味で「Yuki]と答えたのかもしれません。Yuki族の人たちがこの名称をどのように受けとめているのか,私には,謎です。ついでながら,「ユキ(由紀、由貴、友紀)」という名前の日本人女性は,「敵」という意味でこの音声を用いる人たちがいることを知ると,嘆き悲しむに違いありません。