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スポーツで楽しい生涯を
≪福井犬学教育学部教授戎利光先生≫
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〈はじめに〉 |
運動をしている人すべてが、楽しい生涯を送っているとはいえませんが、規則的な運動で楽しく生き生きとした人生になる可能性はあります。今回の「スポーツで楽しい生涯を」では、適切な運動がいかに健康を導き、楽しい人生を招くかを、福井新聞に十一回にわたり連載したコラムを基に、科学的に紹介しましょう。 |
1. |
運動と健康(ストレス解消、血圧も正常に) |
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2. |
運動不足(燐脂質増加し、老化現象を促す) |
3. |
体脂肪(運動量不足で燃焼しきれず) |
4. |
体の柔軟性(運動しないと大幅低下招く) |
5. |
貧血(中等度の運動は酸素不足を防ぐ) |
6. |
ストレス(軽い体操でも軽減の効果大) |
7. |
情緒障害(規則的運動で身体に刺激を) |
8. |
無理な運動(1)(筋組繊に障害 肝臓にも負担) |
9. |
無理な運動(2)(食後には休息マイペースで) |
10. |
運動と自覚症状(疲労、腰痛改善で生活が楽しく) |
11. |
必要な運動量(年齢に合った脈拍数を目標に) |
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1.運動と健康(ストレス解消、血圧も正常に) |
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赤線-非運動群
青線-運 動 群 |
時間的余稽がなく、運動などできないという方が多いでしょう。社会が機械化・文明化された便利な現代社会では、身体をあまり動かす必要がなくなってきました。従って、意識して何か運動をしたり、あるいは仕事の内容が積極的に身体を動かすというのでなけれぱ、簡単に運動不足に陥ってしまいます。運動不足病として、心筋梗塞、狭心症、肥満、糖尿病、動脈硬化症、腰痛症、ストレス蓄積、情緒障害などを挙げる研究者もいます。
右に図示した著者らの実験データを見て下さい。20〜40歳代の男女81人を対象に、一年間の実験期間で、日頃、健康のために運動やスポーツをしましたかという質間をし『はい」、『いいえ」、『どちらでもない」の中から解答を選んでいただき、その中からrはい」と答えた人、「いいえ」と答えた人おのおの5人ずつの血圧(最大血圧)の変化を図示したものです。図を見ると、「はい」と答えた人たちの血圧は一年間に下降し、「いいえ」と答えた人たちの血圧は、一年間で上昇していることが分かります。 規則的な運動で、動脈硬化が改善され、血管の弾力性が増し、あるいは精神的なストレスや肥満が解消されて、少し高かった血圧が正常に戻ったという研究は、数多く報告されています。今回の実験でも、血中コレステロールや肥満度は、同様な傾向を示していました。
この実験では、血圧に影響を及ぼす可能性のある食塩の摂取状況、肥清度、喫煙状況、精神的なストレス、アルコ一ル摂取状況なども調ぺてありますが、運動の影響がかなり犬きいようでした。ただ、高血圧症の方がいきなり運動を始めるのは、あまりにも無謀で、死に至ることもありますので、医師に運動のできる身体の状況なのかを相談する必要がありますが、運動をしないと、運動による予防医学的な効果に、ほとんど恵まれないうえ、血圧の調節機能も低下してくるといわれています。
まだまだ長い人生です。高血圧や運動不足病で悩ませることのないように、充実した楽しい毎日を送っていただきたいと思います。 |
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2.運動不足(燐脂質増加し、老化現象を促す) |
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ここでは、具体的に運動不足と成人病についてお話しします、そこでまず、一ヶ月半の間、運動を全くやめてしまった青年たちの身体変化を右下に図示してあります。健康な男子大学生十三人が、一ヶ月半運動をやめてしまった時と、再開した時の血中燐(リン)脂質の変化を表わしたものです。図からは、運動をやめると血中燐脂質が有意に増え、再開すると有意に減ったことが分かります。機械化・文明化の進んだ便利な社会で飽食の現代では、若い青年でも一ヶ月半運動をしないと燐脂質が増えてしまうということになります。この燐脂質も、コレステロールや中牲脂肪のように、動脈硬化の促進因子として指摘されています。そして、コレステロールや中性脂肪も類似した実験結果を示しました。なお、図中のあまり耳慣れない有意という言葉は、統計学的に偶然生じた結果ではなく、意昧のある変化だということです。
この著者らの実験をもう少し詳しく説明すると、この研究の被験者は、全員が運動部に入っていて、日ごろ好んでよく運動をする大学生ですが、ある時から日常生活は全く同じままで、運動だけを一ヶ月半やめてもらいました。そして運動をしない一ヶ月半が過ぎたら、その後一ヶ月半は以前と同じように運動をしてもらいました。実際の実験では、運動をしない期間と運動をしている期間のカロリー摂取量やカロリー消費量なども調ぺてありますが、やはり運動をしない期間は、カロリー消費量がかなり少なくなっていました。
この研究は、一ヶ月半だけ運動をしなかったという結果ですが、運動をしないのが、そういえぱもう半年も、あるいは、もう一年間もほとんど運動をしていないという方がいましたら、少し青ざめた顔をして、この一連の研究結果に注目していただきたいと思います、運動をやめてしまうと、このように、一生涯でいろんな身体機能が最高値を示す若い青年でさえも、ちょっとした老化現象を示し始めます。
成人病で苦しんでいる方が、いきなり運動を始めるのは危険で、運動のできる身体状況なのか医師に相談していただく必要は十分ありますが、運動不足で成人病の心配ばかりしていて、暗い毎日を送ることのないように、適度な運動を始めて、はつらつとした毎日を送って下さい。 |
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3.体脂肪(運動量不足で燃焼しきれず) |
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最近、気候もよいことから食が進み、何となく太ったような気がするという方もいるでしょう。長い間運動をやめてしまうと血液中の脂肪が噌える、という著者らの研究を前回紹介しましたが、血中の脂肪だけでなく、実は体脂肪も増えるのです。大学の運動部に入っていて、日ごろ好んでよく運動していた男子十三人に、ある時から一ヶ月半運動をやめてもらい、そしてその一ヶ月半が過ぎたら、その後の一ヶ月半は、以前と同じようにまた運動をしてもらったという著者らの研究内容を、もう一度恩い出してみて下さい。その研究の中で、体脂肪に関する測定項目の変化を右下に図示してありますので、ご覧下さい。 まず、図の体脂肪量(体内の脂肪重量)と体脂肪率(脂肪量を体重で割った値で、体内の脂肪重量の割合)の変化をみると、一ヶ月半の間運動をやめてしまうとこの両者は有意に増え、また運動を再開すると有意に減ったことが分かります。なお、図中の有意差とは、偶然生じた差というわけでなく、統計学的に意昧のある差だということです。運動をしていた時には、エネルギー源の一部として脂肪も燃焼され、体内の脂肪が滅少したのでしょうが、長い間運動をやめてしまうと、飽食時代の現在では、体が十分脂肪を燃焼しきれないまま、脂肪が体内にかなり蓄積してしまったのでしょう、ジョギング、サイクリング、速歩、水泳、エアロビクスダンスなどのように、長時間継続できる比較的楽な運動は、カロリーをたくさん使い、そして脂肪が運動の主なエネルキー源になりますので、肥満予防には効果があります。 ところが、運動をしても体重はあまり変わらないということがあります。この研究でも、運動をやめてしまうと除脂肪体重(体重から脂肪の重さを差し引いた重さのことで、筋肉や骨格や内臓などの重さを表わす)が有意に減り、運動を再開すると除脂肪体重が有意に噌えています。つまり、運動を長い聞やめてしまうと体脂肪量が増え、筋肉などの重さを合んだ除脂肪体重が減ることから、体童はあまり変わらず、運動をすると、体脂肪量が滅り、除脂肪体重が増えることから、やはり体重はあまり変わらないということになります。ところが、除脂肪体重が増えることはとても健康的なことで、締まった体形になり、肥満ではありません。
とはいえ、長い間運動しないで体重が増えたという方もいると思いますが、この場合は、除脂肪体重の減少量より、体脂肪量の増加量が多いことからみられる現象と考えられます。こうなってくると、運動不足と肥満を自ら実証していることになります。規則的に運動をして肥満を解消して下さい。 |
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4.体の柔軟性(運動しないと大幅低下招く) |
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運動休止と再開における
立位体前屈の変化 |
右下の図は、一ヶ月半運動をしないと、立位体前屈が有意に低下し、その後一ヶ月半の運動を再開すると、またこの立位体前屈は有意に向上したという運動による柔軟性の変化を表わしたものです。 この立位体前屈というのは、両足をそろえて立ち、上体を徐々に前屈させていき、両膝を曲げないでどれだけ手指を伸ぱすことができるかを測るものですが、文部省のスポーツテストとして行われる体力診断テストの一つですので、どこかでやったことがあるという方も多いでしょう。この立位体前屈は、体の柔軟性、つまり、体がどれだけ軟らかいかを表わします。この実験の被験者は男子大学生十三人ですが、立位体前屈が十三・三センチ(運動休止前の値)というのは、二十四歳ぐらいの男性の平均的な値ですし、その後一ヶ月半運動しなくて測定した十一・七センチというのは、三十歳ぐらいの男牲の値です。そして、運動を再開して一ヶ月半後になって測定した十三・九センチは、二十二歳ぐらいの男性の値です。つまり、一ヶ月半ほど運動しなくて、体の柔軟性が六歳分ほど低下したことになります。ところが、体が硬くても、毎日の生活で何も困ることはないだろうと思っている方がいるかもしれません。体の軟らかい人は、体をひねったり手足を十分伸ぱしたりしても、割と自由に体を動かすことができます。しかし、体が硬い人は、行動をあまりスムーズにできませんので、軟らかい人のように無理に体を動かそっとすると、筋を違ったり、ぎっくり腰を起こしたりする危険性があります。ところが、体があまり軟らかすぎるのも、関節が脱臼や捻挫を起こしやすいともいわれているので、注意して下さい。 ただ、この柔軟性は体の骨組みや関節を保護する靭帯の成分に関係があり、遺伝するといわれています。しかし、運動不足で体が硬くなることはあります。機械化・文明化にどっぷりと浸っていて、威人病や肥満に悩み、体が硬くて、ほとんど自由に動かないといった人生だけは、送って頂きたくないと思います。 |
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5.貧血(中等度の運動は酸素不足を防ぐ) |
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子供が朝礼などの集会で頻繁に倒れるという話を、最近よく聞きますが、その原因として専門家は、(1)貧血(2)朝食抜き(低血糖症)(3)起立性調節障害(4)睡眠不足・心配ごと(5)てんかん−などをあげています。このように、原因の筆頭に、貧血が挙げられています。また、若い女性に貧血が多いことも指摘されており、最近この貧血で悩む人が多いようです。
ところが、この貧血は、運動不足とも深くかかわっています。貧血とは、血液中の赤血球数が足りない場合、あるいは、赤血球数は十分あってもヘモグロビン(血色素)が足りない場合をいいますが、このヘモグロビンの中にあるヘムという化合物が酸素を捕らえ、酸素を全身の細胞や組織に運んでいます。従って、ヘモグロビンが著しく減少すると、つまり貧血になると、十分な酸素が細胞や組繊に運搬されないために、身体の臓器をはじめ、身体各部分が酸素不足の状態に陥ることになります。その酸素不足のために、疲労しやすい、息切れや動悸、顔面蒼白といった状態になります。
ところが、ジョギング、水泳、サイクリング、速歩などのような中等度の運動を規則的に実施することにより、心臓が活発に働き、心筋も丈夫になり、ヘモグロピンが増加し、そして酸素摂取能力(体内に酸素を取り入れる能カ)が高まります。図を見てください。図は、二十〜四十歳代の健康な男女八十一人を対象に、「日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていますか」という質問をし、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の選択肢から答えを選んでいただき、「はい」と答えた運動実施群二十三名と「いいえ」と答えた非運動実施群四十四人のヘモグロビン量の差を検討したものです。 その結果、運動実施群のヘモグロビン量は、非運動実応群より有意に多いことが分かります。そして、血中のヘモグロビン量が増加すると、筋肉への酸素運搬能力が増し、少々激しい運動をしても筋肉疲労に陥らなくなります、また、酸索が多く運ぱれれぱ、疲労物質である乳酸もかなり水と二酸化炭素に分解されるので、長時聞運動を継続することができ、運動後も疲労はあまり残りません。ところが、長期間運動をしないで運動不足になると、このような運動効果に恵まれなくなってしまいます。ただ、スポーツ性貧血というのがあって、十分栄養を摂取しないで激しい運動をしたり、食事などにより鉄分を補給せず激しい運動をすることは、かえって貧血を招くことにもなり、注意してください。
しかし、前途の中等度の運動は、骨髄の造血機能を向上させ、赤血球を増やし、貧血の予防になるといわれています。鉄分の不足した食習憤で貧血に悩むより、適切な食事や運動で、楽しい毎日を送ってください。 |
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6.ストレス(軽い体操でも軽減の効果大) |
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運動不足の影響は、精神的な健康障害をもたらすこともあります。精神的な健康障害というと、ストレスを思い浮かべる方が多いと思います。職場で人間関係や仕事の成績に悩み、仕事から開放されて帰宅したと思うと、家庭内のもめ事でまた悩み、その上、経済的な悩みが加われぱ、もう人生真っ暗だと言わざるを得ないかもしれません。
ところが、運動で職場での人間関係や家庭内でのもめ事などが解決するわけでもありませんが、運動によってこのような精神的ストレスを軽減することができます。右下の表は、二十〜四十歳代の健康な男女八十一人を対象に、「日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていますか」(質問A)「不平不満が多いですか」(質間B)という質問をし「はい」「いいえ」「どちらでもない」の選択肢から答えを選んでいただき、質問Aで「はい」と答えた人たちのうち五人と「いいえ」と答えた人たちのうち五人の質問Bの答えを表にしたものです。
BさんとHさんは「どちらでもない」と答えていますが、それ以外では、日ごろ運動やスポーツをしていると答えた人たちは、日常生活で不平不満が少なく、日ごろ運動やスポーツをしていないと答えた人たちは、不平不溝が多いことがわかります。ただ、根っから楽天家だという人もいて、同じ状況下でも、不平不満をすぐに感じる人もいれば、全く感じないという人もいますが、適度な運動をすることによって脳で分泌されるエンドルフィンというホルモンが増えて、この不快感を取り去りストレスは軽減されるのです。
また、筋肉が働くと、筋繊維の中にある知覚神経がその働きを捕らえ、脳幹網様体という脳の部分を刺激し、大脳はその機能をフルに発揮するといわれています。従って、長時間の自動車の運転で精神的に疲れた時などに、車から外に出て軽く体操をすると、さっぱりした感じになると思います。
つまり、長い間運動をしないと、ストレス蓄積を予防するような運動の予防医学的効果にはほとんど恵まれないということになります。精神的なストレスを感じやすい複雑な現代社会での生活で、胃漬瘍や十二指腸潰瘍をはじめ、高血圧や下痢・便秘などで悩んでいる方が多いと思います。このような症状の程度によっては、運動が必ずしも好ましいとはいえませんので、医師への相談が必要です。
質問Aの答え |
質問Bの答え |
日ごろ、健康のために運動やスポーツはしていないと答えた人たち |
Aさん(38歳男性)
|
は い |
Bさん(28歳男性)
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どちらともいえない
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Cさん(35歳女性)
|
は い |
Dさん(32歳女性)
|
は い |
Eさん(38歳男性)
|
は い |
日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていると答えた人たち |
Fさん(29歳男性)
|
いいえ |
Gさん(27歳男性)
|
いいえ |
Hさん(33歳女性)
|
どちらともいえない |
Iさん(46歳男性)
|
いいえ |
Jさん(30歳男性)
|
いいえ |
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7.情緒障害(規則的運動で身体に刺激を) |
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運動不足病の中には、情緒障害があります白情緒障害など全く無縁だという方もいるでしょうが、最近、ちょっとした感情のもつれなどで、勤め先に行きたくなくなったり、自閉症的な行動をしたり、暴力をふるいそうになってしまったという方や、そこまでではないものの、心配ごとが多いため恐怖心にさいなまれたり、なんとなく物事に集中できず落ち着きがなくなったりすることがあるという方がいるかもしれません。ストレスの蓄積しやすい複雑な現代杜会で、情緒が不安定になるのも無理のないことかもしれません。
もちろん、運動すれぱ、どのような情緒障害も治るというものではありませんが、情緒障害の治療や予防に運動が活用され、効果を発揮しているという報告は数多くあります。自閉症の子供への水泳の効果は、水中で歩く、跳ぷ、走る、浮く、潜る、ひっくり返る、泳ぐなど身体を動かしながら、普通の生活や地上で得られないさまざまな刺激を身体に与え、正常な発達を促すことだと指摘する専門家もいますし、自閉症の子供に水泳指導をしながら、自閉症を改善している研究者もいます。家庭内の人間関係がうまくいっていないことが原因で、子供が情緒障害に悩むこともありますので、その原因を直接的に矯正することも重要でしょうが、運動効果の指摘も数多くあります。
二十〜四十歳代の健康な男女八十一人を対象に、「日ごろ健康のために運動やスポーツをしますか」(質間A)、「いらいらしますか、(質問B〉、「眠れないことがよくありますか」(質問C)、という質間をし、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の選択肢の中から答えを選んでもらい、質同Aで「はい」と答えた人たちのうち五人と、「いいえ」と答えた人たちのうち五人の質問B質間Cの答えを表にしました。もちろん、いらいらしたり、眠れないことが情緒障害ではありませんが、何かの原因で、いらいらしたり、眠れないことが多けれぱ、繕果的に情緒が不安定になっても不思議ではありません。表を見ても、日ごろ運動をしていない人たちは、いらいらする人が多いようです。逆に、日ごろ運動やスポーツをしている人たちは、あまりいらいらすることもなく、眠れないこともないようです。いろいろなことで情緒が不安定になりやすい毎日です、運動不足で、情緒障害を招くよりも、規則的に運動を楽しんで、情緒障害を吹き飛ぱしてください。
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質問Bの答え |
質問Cの答え |
日ごろ、健康のために運動やスポーツはしていないと答えた人たち |
Aさん(40歳男性)
|
は い |
どちらともいえない |
Bさん(32歳女性)
|
は い |
は い |
Cさん(29歳男性)
|
は い |
どちらともいえない |
Dさん(35歳男性)
|
は い |
どちらともいえない |
Eさん(35歳女性)
|
は い |
は い |
日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていると答えた人たち |
Fさん(27歳男性)
|
どちらともいえない |
いいえ |
Gさん(30歳男性)
|
いいえ |
いいえ |
Hさん(46歳女性)
|
いいえ |
いいえ |
Iさん(36歳男性)
|
いいえ |
いいえ |
Jさん(54歳男性)
|
どちらともいえない |
いいえ |
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8.無理な運動(1)(筋組繊に障害 肝臓にも負担) |
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これから運動を姶めようと思っている方も多いでしょう。ぜひ、規則的に運動を楽しみ、健康で生き生きとした毎日を送っていただきたいと思います。
ところが、運動を楽しんでいただくために、注意していただきたいことがいくつかあります。というのは、運動が健康を導くのは、適度な運動であるという条件がつきます。そこで適度といえない激しい運動をした場合、身体がどのような変化を示すかについて詳しく説明しましょう。
まず、右下の図ほ、日ごろよく運動をする鍛練者と、長い間あまり運動をしなかった非鍛練者が、一緒に厳しい夏期合宿に参加した場合の、血液中のグルタミン・オキサロ酢酸トランスアミナーゼ〈GOT)、グルタミン・ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)、アルドラーゼの変化を示したものです。
GOTやGPTは肝機能を表わす項目として、人間ドックや定期健康診断などでよく検査されますので、ご存じの方が多いと思います。アルドラーゼも血液中の酸素で、骨格筋の中に非常に多くあって、通常、血液中にほんのわずか見られるだけですが、過激な運動などをして筋組織に著しい障害が生じると、血液中のアルドラーゼ量が増えてくるといわれています。
図を見ると、合宿前には鍛練者群と非鍛練者群のGOT,GPT、アルドラーゼの値が類似しているのに、合宿中になると非鍛練者群の値が急増し、合宿中はもちろん、合宿後六日経っても、非鍛練者群のGOT,GPT、アルドラーゼの値が上回っていることが分かります。つまり、厳しい合宿に参加した非鍛練者群は鍛練者群に比ぺ、筋組織が著しい障害を起こし、肝臓への負担も大きいことが分かり、健康的なことだとはいえません。適度な運動が健康を導くのは事実ですが、無理な運動が健康をそこねるのも事実です。 健康づくりの運動は、選手養成のトレーニングではないので「一秒速く走れる、あるいは泳げるようになった」ということは問題になりません。それよりも、運動によって、肥満が解消されたり、日常生活に活気がわいたり、精神的なストレスが解消されたり、高かった血圧が正常になったり、多かった血中コレステロールや中性脂肪が正常になった、などといったことの方が健康づくりの運動としては、目的にかなっています。
無理をしないように、楽しみながら運動を続けて下さい。
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9.無理な運動(2)(食後には休息マイペースで) |
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まずは『食後すぐ運動をしてもよいのですか?もし、しない方がよいとすれぱ、どれくらい休めぱよいのですか?」という質問についてお話ししましょう。
食後すぐ運動することは、好ましいことではありません。その理由として、食後は食物の消化や吸収のために消化器系が盛んに活動し、そのために血液が消化器系に多量に集まりますが、運動時には筋肉を動かすことから、筋肉に多量の血液を送る必要があります。従って、食後すぐ運動をすると、消化器系と骨格筋が血液を奪いあい、繕局、骨格筋への血流供給が優先され、消化器系への血液が犠牲になり、消化や吸収が円滑に行われなくなる可能性があるという専門家の指摘があります。また、食後には胃の中に食物がたまっているので、食後すぐ運動をすると胃がその重みのために振り子運動を起こし、これが刺激となって、吐き気、嘔吐などを起こしやすいともいわれていますので、注意してください。このようなことから、食後には、強い運動の場合は約二時間、中等度の運動では約一時間、そして軽い運動でも三十分間、休んでから運動を始めるようにした方がよいという指摘があります。
講演中に「忙しくて連続して違動する時間がとれないので、朝と昼といったように二回に分けて運動すると、効果がないのですか?」という質同が時折あります。一瞬、返事に戸惑ってしまうような質同ですが、その研究結果を紹介しましょう。筆者が大学生を対象に行った実験ですが、図に示すように、一日に全距離を一度にジョギングしても、半分の距確を一日二度、あるいは、三分の一の距離を一日三度に分けてジョニングをしても、最大酸素摂取量、最高心拍数、体脂肪率、血液脂質I(総コレステロール、高比重リポ蛋白コレステロール、低比重リポ蛋白コレステロール、超低比重リポ蛋白コレステロール、中性脂肪)のどれも、その変化に差がなかったというものです。ただ、八百メートルを全力で走るのと、四百メートルを一日二回、あるいは二百六十メートルを一日三回に分けて疾走するような場合は、合計距雌が同じであっても、それらの運動に使われる身体の生理学的なエネルギーシステムが異なりますので、効果には当然差が出てくるので、このような場合には応用できません。しかし、ジョニングなどのように、健康づくりを目的に中等度の継繍的な運動を長く実施するような場合には、十分応用できますので、自分にあったぺ一スでゆっくり運動してください。
ジョギングの走距離を分散したことによる研究結果 |
ジョギングの走距離を3種類に分散
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(1) |
・・・・ |
全走距離を一気にジョギング |
(2) |
・・・・ |
(1)の半分の距離を朝、残りの半分を夕方にジョギング |
(3) |
・・・・ |
(1)の1/3の距離を朝、1/3を昼、残りの1/3を夕方にジョギング |
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・最大酸素摂取量 |
これらの8項目について、(1)(2)(3)で差はみられなかった。 |
・最高心拍数 |
・体脂肪率 |
・総コレステロール |
・高比重リポ蛋白コレステロール |
・低比重リポ蛋白コレステロール |
・超低比重リポ蛋白コレステロール |
・中性脂肪 |
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10.運動と自覚症状(疲労、腰痛改善で生活が楽しく) |
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以前は、なんとなく疲れて体がだるかったり、なんとなく労働意欲がなかったり、なんとなく疲れやすいと思ったものの、運動を始めたら、最近あまり感じなくなったという方が多いと思います。このような自覚症状の改善について、お語ししましょう。
まず、一見健康な方が、半年の間、平均二十五分間の軽い運動をした繕果、「胃部不快感」「腰痛」「疲れやすい」「肩こり」「かぜをひきやすい」「労働時の息切れ」「いらいらする」「よく眠れをい」「労働意欲の低下」「食欲不振」「便秘」などの自覚症状が少なくなったという報告があります。もちろん、胃の疾患などで胃部に不快感があったり、食欲不振だという場合は、運動よりも、疾患を治療していただく必要がありますが、一見健療な方についての自覚症状が規則的な運動によって改善したことがわかります。
何度か紹介した研究内容ですが、「日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていますか」(質間A)「腰痛をよく感じますか」(質間B〉「なんとなく疲れて体がだるいですか」(質間C)「とっさの場合でも素早く体を動かせますか」(質間D)という質間をし、「はい」「いいえ」「どちらともいえないjの中から答えを選んでいただき、質間Aで「はいjと答えた人たちのうち五人と、「いいえ」と答えた人たちのうち五人の質問B,C,Dの答えを表にしました。
とっさの場合が日常生活であまりないのかもしれませんが、質間Dでは、「どちらともいえないjと答えた人が多いことがわかります。それ以外では、日ごろ運動やスポーツをしていると答えた人たちは、日常生活で、あまり腰痛を感じることもなく、疲れて体がだるいという感じもあまりしをいことがわかります。その反対に、日ごろ運動をしていないと答えた人たちは、やはりこのような自覚症状を感じているということになります。
何か疾患があっていろいろな自覚症状がある場合は、やはり医師にその疾患を治療していただく必要がありますが、いろいろな自覚症状で暗い毎日を過ごすよりも、積極的に運動を楽しんでみてください。そして、生き生きとした楽しい毎日になることをくれぐれも願っています。
質問Aの答え |
質問Bの答え |
質問Cの答え |
質問Dの答え |
日ごろ、健康のために運動やスポーツはしていないと答えた人たち |
Aさん(40歳男性)
|
は い |
は い |
どちらともいえない |
Bさん(30歳女性)
|
は い |
は い |
いいえ |
Cさん(34歳男性)
|
は い |
は い |
いいえ |
Dさん(31歳男性)
|
は い |
は い |
どちらともいえない |
Eさん(31歳女性)
|
は い |
は い |
いいえ |
日ごろ、健康のために運動やスポーツをしていると答えた人たち |
Fさん(34歳男性)
|
いいえ |
どちらともいえない |
どちらともいえない |
Gさん(29歳男性)
|
いいえ |
いいえ |
どちらともいえない |
Hさん(46歳男性)
|
いいえ |
いいえ |
は い |
Iさん(34歳男性)
|
いいえ |
どちらともいえない |
どちらともいえない |
Jさん(30歳男性)
|
いいえ |
どちらともいえない |
どちらともいえない |
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11.必要な運動量(年齢に合った脈拍数を目標に) |
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最後の今固は、実際に運動する際のガイドラインともなる「健康づくりに必要な運動量」を紹介しましょう。昨年、厚生省が発表した具体的な運動量ですが、まとめて表にしてみました。健療づくりに必要な運動量は、年齢層別に少し異なりますので、注意して表を見てください。目標心拍数も表示されています。時折、運動中に、十秒間立ち止まって、脈拍数を測って見てください、六倍すれぱ、一分間の脈拍数が分かりますので、表の目標心拍数に近いかどうかを、調べてみてください。ただ、あまり長い間立ち止まると、脈拍数は回復してきますので、素早く測る必要があります。そして、測定した脈拍数が、表の目標心拍数より少なけれぱ、もう少し活発に動き回る必要があり、あるいはジョギング中なら、少しぺ一スを上げる必要があります。しかし、表の目標心拍数より多けれぱ、健康づくりを目的とするなら、それほど活発に動かなくてもよいし、それほどぺ一スを上げてジョギングしなくてもよいということになります。
ただ、毎日実施することが望ましいと書かれていますので、ちょっと大変だと思った方がいるかもしれません。しかし、ある一定の運動強度で、一日三十分間で週三日を目安に運動しても効果があるという著名な研究者もいますので、毎日運動をしないと効果がないというものではありません。著者の研究でも、週三日で十週間ジョギングをしたことにより、最大酸素摂取量が有意に増加したという繕果がありますし、類似した報告は数多くあります。
ただ、運動さえしていれぱ、健康になるというわけではありません。運動不足だけが不健康だというわけではなく、運動不足に食べすぎや精神的ストレスが加わると、最近指摘の多い健康障害を著しく招いてしまうことになります。運動不足に食べ過ぎ、そしてさらに精神的ストレスといった暗い毎日を送るか、適度な運動により、肥満や精神的ストレスを予防して明るく楽しい生き生きとした毎日を送るか考えてみてください。
規則的に運動を楽しんでいる方と、運動などほとんどしたことがないし、運動というとテレビで観戦するだけという方とは、健康的な人生を積極的に楽しんでいるかどうかに大きな違いがあるように思います。途中で後戻りできない人生です。健康的な人生を送っていただいて、あなた自身の人生を大いに楽しんでいただけることを心より願っております。
健康づくりに必要な運動量 |
年齢階級 |
20代 |
30代 |
40代 |
50代 |
60代 |
一週間の合計運動時間 |
180分 |
170分 |
160分 |
150分 |
140分 |
(目標心拍数 拍/分) |
(130) |
(125) |
(120) |
(115) |
(110) |
ジョギング・水泳・速歩サイクリング・エアロビクスダンスなどといった有酸素運動を、上記の心拍数で10分間以上継続し、1日の合計時間が20分以上で、毎日実施することが望ましい。 |
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