ストレッチングの基礎

はじめに:
 最近は、ストレッチに関して多数の本が出版されています。本来、ストレッチが個々の必要性や環境によって様々な手法の創意工夫を推奨していることから、選択肢の材料が溢れていることは喜ばしいことです。
 しかし、総論を理解せずに各論ばかりに目を奪われ、効果や必然性・注意点を理解せず形だけをまねをしていては、ストレッチの恩恵を受けることはできません。また、現在のストレッチに関する様々な情報も、その基礎となる考え方は、ボブ・アンダーソンが発表した「ストレッチング」に多く含まれています。
 ここでは、ボブ・アンダーソンが発表した「ストレッチング」の和訳資料を参考に、基本的なストレッチを紹介します。

STRETCHINGとは?
身体の柔軟性獲得の手法として、1975年にボブ・アンダーソン(Bob-Anderson)により発表されました。
ストレッチングには、
1) static(静的な)stretching
2) dynamic(動的な)stretching
  の2っの手法があります。またそれぞれに、
a) active(能動的な)stretching
b) partner(passive-受動的な)stretching
  があります。
ボブ・アンダーソンは、筋・腱・結合組織の伸張限界を越えて引っ張る危険性とエネルギー消費量が少ない「static−stretching」を中心に発表しています。
ストレッチングを始める前に
1) グループでストレッチングする場合には、ストレッチングはコンテストでないことを十分に理解しておく必要があります。ストレッチングは、完全に個人的なもので、各自が異なっているのは当然で、他者と比較する必要はありません。大切なことは、ストレッチングのフィーリングで、柔軟性を比較することではありません。ストレスをかけた柔軟体操は、傷害の可能性と消極的な姿勢を導く結果となり、オーバー・ストレッチの原因となるだけです。
2) ストレッチングを指導する場合、個々の能力の限界内で行うことを理解させる必要があります。ストレッチが弱く感じれば徐々に強めていき、やり過ぎや強くしすぎないように、フィーリングを感じ取ることと、リラクゼーションがいかに大切かを理解させる必要があります。
3) グループ内に、柔軟性が乏しい者がいても、ストレッチングの必要性とをそのフィーリング理解し前向きに取り組んでいるのであれば、特別に指導する必要はありません。しかし、非常に緊張状態の強いものがいた場合は、グループから離れて、その者にあった効果的なストレッチを一人でやらせることも選択肢のひとつです。個々の緊張と柔軟性の不足は、その者の忍耐力とリラクゼーションが改善の鍵となります。
4) ストレッチングにおけるリラクゼーションは、精神的な安定と、十分な身体的感覚を身につけることができます。また、リラクゼーションは、アスリートの開発と改善の重要な要素のひとつです。
5) リラクゼーションには、精神的な要素と肉体的な要素があり、競技における集中力の発揮や競技能力のレベルアップに、リラクゼーションの状態が大きくかかわっていることを、アスリートは実感しているはずです。
6) リラクゼーションとは、眠っていることを意味するのではなく、精神の安定を図り、集中することです。その修得とストレッチングの修得とは、大きく影響しあっています。
7) 呼吸は重要で、ゆっくりとしたリズミカルな呼吸は、リラックスを助け、ストレッチングへの集中を助けます。
8) ストレッチングを指導する場合、その効果として、可動範囲や自己のリミットを広げることができることを、実際に体得しておく必要があります。
9) 個々の目的を理解した正しい心構えや精神的・肉体的に安定した状態で、正しい動きを規則正しく、自発的、また継続的に行うことができれば、自分自身を十分開発できることを理解しておく必要があります。可動域の改善や傷害の予防といった効果は、比較的早い時期に実感できますが、競技での身体のさばきや動きの範囲などの改善を実感するには、少なくとも1ヶ月かかることも理解しておく必要があります。
10) ここまで述べたことを十分に理解し、実行し、その効果を実感していれば、気抜けしたストレッチングがいかに無駄なものであるかが解るでしょう。
いつストレッチングをするのか
運動の前後におこなうのが一般的ですが、基本的には、やりたいときにいつでもどこでもおこなうことができます。また、肉体的・精神的に緊張しているときのリラクゼーションの獲得の手段としてや、就寝前後などの日常生活のストレスの解消として行うことも有効です。
一度ストレッチの方法を修得すれば、自分に特に必要なストレッチを定期的に時間をかけて開発することもできます。
だれのためのストレッチなのか
ストレッチングの修得には、特別な身体的スキルは必要ありません。アスリートに限定されたものではなく、特別な訓練なしに、いつでも・どこでも・だれでも・自由に習得することができます。大切なことは、個々の条件によってアプローチし、自然なコントロールとフィーリングで、ゆっくりとストレッチングをし、楽しく継続的に行うことです。

 ここまで読んでいただくと、気がつかれたと思いますが、ストレッチングの修得による肉体的な自己開発のほかに、ストレッチングおけるリラクゼーションの重要性と精神的な安定と集中力の開発について述べられていることに興味がひかれます。
 ストレッチングによる筋肉ひとつひとつに対する感覚の読み取りは、リラクゼーション下で行われ、精神的な安定と集中力が必要とされることから、メンタルトレーニングのひとつとしてストレッチングが有効であると考えられます。
 また、ストレッチングは、動作と筋肉の感覚を結びつけて開発することから、競技中の動作やポーズ・関節の角度などと、筋肉の緊張や弛緩を、関連づけて認識することも可能になります。このことは、競技動作に必要な筋肉を認識し強化したり、動作を安定させるポジションを感じ取ったりするだけでなく、野球のピッチャーのセットポジションやバスケットボールのフリースローなど、静から動に移る際の、リラックスと精神集中に利用することもできます。このような多様性の効果をストレッチングで開発するためにも、決められた形に縛られるのではなく、自分が必要とするストレッチングとその方法を確立することも重要です。
 

一度、自己開発について考えてみましょう。
 自己開発は、ストレッチングだけでなく、フィジカルトレーニングやメンタルトレーニングにおいても言われていることです。それぞれのトレーニング技術やその有効性については、トップアスリートを引き合いにして説明されることが多く見られます。しかし、先にも書かれているように、自己開発には、多くのチェックポイントを設け、それを意識し、感覚を認識し、対応するという自己分析と認識が重要です。他人の真似事をしていても、心の中を覗いたり、感じ取っていることやその感覚を共有することはできません。つまり、人間の複製品は創れないのです。自己開発のための研究対象とし、形だけにとらわれず、自分とを比較・分析し認識することに努めましょう。
 自己の分析力と認識力は、イメージトレーニングに生かすこともできます。ある動作を行わせ、それにかかる時間を計測して比較したところ、一度経験しただけの者・繰り返し練習した者と比べても、イメージトレーニングをした者が有意に時間を短縮できたという報告もあるようです。ただし、ここで重要なことは、漠然と現状のイメージトレーニングを行うのではなく、現状を分析・認識し、向上に必要な要素を見つけ出し、それを分析・認識し、対処した改善・向上されたイメージトレーニングをすることです。
 一度、自己開発について考えてみてはいかがでしょうか。

柔軟性とは?
関節の運動可能範囲(ROM)の大きさとして数字で表され、スタミナ(stamim)、スピード(speed)、筋カ(strength)、技(ski11)とともにスポーツの「Five-S」と呼ばれています。正常なROMの獲得は、筋や関節の傷害の予防につながります。
柔軟性を限定させる因子には、
1) 筋繊維及び筋の結合組織。
2) 腱。
3) 靱帯及び関節包。
4) その他。
  があります。
ストレッチングにより、直接的に筋・結合組織・腱、間接的に靱帯・関節包を伸ばすことにより正常なROMを獲得することができます。

ストレッチングの効果
直接的な効果は正常な柔軟性の獲得ですが、このことは筋や関節の傷害の予防につながります。また、ストレッチングを行う上で必要なリラクゼーションやストレッチングの目的を理解し自己の限界内での規則正しい自発的なアプローチも身につけることができます。
これにより、単に筋カトレーニング・バランストレーニング・スピードトレーニング・スポーツ・リハビリテーションなどを行う際の弊害を取り除く為の柔軟体操の一種と言うだけでなく、精神の安定の確保と自己の能力やその限界を認識しその開発に取り組む姿勢が、それぞれの効果を最大限引き出すことにつながります。
つまり、不安定な精神・不十分な認識と心備えで、単に柔軟性だけを求め、大勢での号令のもとにコンテスト的に、精神的なストレスや反動・痛みによる身体的なストレスを感じながらストレッチングを行うことは、傷害の可能性と消極的な姿勢を導き出し、先に述べたストレッチングの効果の恩恵を受けることはできません。

リラクゼーション
ストレッチングを行う際にリラクゼーションを得る為には、
1) 意議の集中、マイペース・精神の安定が得られるような環境と心瀦え。
2) 規則正しい呼吸と筋の緊張と弛緩の感覚を意識することによる、中枢神経等の弛緩。
3) 筋の伸張反射逃避性反射の抑制。
  などが必要です。
その手法として、
a) ストレッチングの意義と効果を理解し、自己の意識を改革する。
b) 副交換神経の刺激による交換神経の興奮の抑制。(腹式呼吸法などを利用)
c) 筋の相反性神経支配を利用した筋の弛緩。
d) 筋カの約60〜70%での等尺性収縮(アイソメトリック)と弛緩を繰り返すことによる筋の弛緩。
  が挙げられる。
もし、筋の頻回に繰り返す収縮や持続的収縮による筋の弾性の消失を放置すれば、少しの刺激に対しても伸張反射や逃避性反射を引き起し、筋の緊張や時には痛みも生み出します。
更にこの刺激は、求心性の知覚神経を通り中枢神経に送られ、神経や脳の過緊張をも引き起します。更にこの緊張は遠心性の神経を介して筋のみならずその他の組織にもフィールドバックされ、それぞれに緊張を生みます。つまり、筋の緊張が放置された場合、これらの悪循環を生み出し、筋の炎症や傷害だけでなく全身的に悪影響を引き起こす結果となります。




ストレッチングの方法

@ 筋の伸張反射・逃避性反射が起こらないように心掛け、先のa)・b)の手法を用いて完全なリラクゼーションを得ましょう。
A 先のC)・d)の手法を用いてリラクゼーションを得た後行いましょう。
B 痛みや過緊張を感じたら中断し、@より再開しましょう。
ストレッチ・ポジションに入るまでの動作ではゆっくりと息を吐き出し、ストレッチを保持している間はゆっくりとリズミカルなぺ一スで呼吸を行いましょう。この時、目標とした筋がストレッチングされているかを感じ取りながら、ストレッチのフィーリングを体得しましょう。
ストレッチの増加は、先のフィーリングと比較して痛みや緊張が出ない範囲で行いましょう。

基本的なストレッチシリーズ








つづく