メンタルトレーニングとは -Mental Training-
 スポーツにおいて自分の能力を伸ばすために絶対欠かせない要素として、心・技・体の三要素が昔から挙げられています。そしてこれらの要素が、別々に存在するのではなく、お互いに干渉しあい、それぞれの要素の集合体が同一化に向かうことが自分の目標の達成には大切なことです。
 肉体面(技・体)の向上の為に技術練習や体力トレーニングなどを行っている時でも、心(思考)が基礎となりその行動を支えているのです。つまり、メンタルトレーニングとは、スポーツ中はもちろんのこと、体力トレーニングや技術練習で自分の目標に向かって能力を伸ばす重要な一要素になる心(思考)を鍛えることです。

思考のありかた
 「マイナス思考」の人間は、マイナス要素の出来事が起きたとき、その事にいつまでも捕らわれ、「なぜ?」「どうして?」「どうしよう?」など・・・答えも出ないのに後ろ向きの後悔に満ちたマイナス思考に陥ります。そして集中力を欠き、消極的で体もとたんに重くなり、同じような事を繰り返すという悪循環を繰り返し、自分の能力を十分に発揮できないまま時間だけが過ぎてしまいます。この悪循環を断ち切り、集中力を持続し、目標達成のために自分の能力を100%発揮するには、結果だけに捕らわれるのではなく、今成すべきことを考える「プラス思考」が最も重要なのです。
 今集中すべき点は何なのかよく整理し、その事に全力を注げばよいのです。その集中すべき点をただ1つ設定し、その事に全力を注いでやり続けることが大きな成功を得るのです。反省はあとでゆっくりすればいいのです。
 こうした思考の違いは、脳内で情報処理され、それぞれ違った科学伝達物質を発生します。その結果、「プラス思考」は、ベータ波を抑えアルファ波を多く出します。これは、ベータ波による「極度の緊張状態やイライラ、気持ちが落ち着かない状態」ではなく、アルファ波による「気持ちに集中ができていて能力を最も発揮しやすい状態」を作り出すことにつながります。つまり、「プラス思考でいること」が脳からアルファ波が出て集中力や心の落ち着きを養い、よい結果を生むことができるのです。
 また、自分が存在する周辺環境も「思考」に影響を与えます。対人関係では、自己を認識し目標を持つと同時に、グループとして共通の目標と反省・計画・実行を互いに認識し、協調して整然とした行動をとることが重要です。また、物理的環境でも、雑然として落ち着かない環境を改善し、気持ちに集中ができて能力を最も発揮しやすい環境を築くことが重要です。スポーツは、「プラス思考」でプレーできることが最も重要なのです。

感情と思考
 感情(喜怒哀楽)とは、過去の経験や本能的なことから自然と湧いてくるもので、脳のほぼ中央に位置する「視床下部」からホルモンを分泌してコントロールをしています。 「喜び、楽しい」などの感情が高まると、快感ホルモンが出て、やる気もおきて物事に熱中しやすくなります。逆に「怒り、哀しみ」などの感情が高まると、「視床下部」から抑制物質ホルモンが出て、物事に対するやる気も失せ思考能力を抑制します。 
 思考は、脳の「前頭連合野」で起こり、思考・選択・判断などの働きをし、その情報は「視床下部」に伝えられ化学物質の分泌を促します。つまり、「プラス思考」で物事を考えた場合は、「視床下部」では快感の化学物質が分泌され、逆に「マイナス思考」で物事を考えた場合は、不快の化学物質が分泌されます。
 このように、「感情」と「思考」は、発生する脳内での位置は違いますが、独立しているのではなく、常に連絡を取り合っています。すなわち、「感情エネルギー」の「喜び、楽しい」などの感情が高まり、更に「思考エネルギー」の「プラス思考」が伝達されれば、最も理想的なメンタルコントロールが可能となります。

 ここで述べた感情のありかたと感情のコントロールは、スポーツに限らず勉強・仕事・対人関係・健康管理など日常生活でも応用することができます。数多く経験し対応を身につけることが、様々な場面でのメンタルコントロールを可能にします。普段から積極的に意識しましょう。

目標設定と自己改革
自己認識
 メンタルトレーニングは「自分の過去を見つめ、自分の現在に気づき、自分で未来を変えていくこと」から始まります。自分の足りないところを改善し、自分の良いところをのばすなど向上心を大切にしていくためにも、客観的に自分の目的と目標を設定することが必要です。まずは、自分の過去を振り返り、現在の自分を客観的に見つめ、今までの成功と失敗について肉体的(技・体)・精神的・環境的(対人・物理)など具体的な項目を設定して考えてみましょう。これが自己改革の第一歩です。
目標設定
様々なスパンの目標を設定しましょう。自分自身の目標を細分化して立てて行けば、イメージがより鮮明に沸いてきて、より具体的に目標が明確になり、自分の矛盾を見つけて改善し、やる気も自ずと湧いてきます。そして、「今やらなければならないこと」「今しかできないこと」「今だからできること」に対して集中し、それを継続して行くことが精神レベルの成長につながります。
最終の目標 それぞれの
最高と最低限度の目標
中期の目標
1年後の目標
今月の目標
長期的目標設定
 次に長期的な目標を設定し、「自分を見つめ直す」ということをしてみましょう。あいまいなところや矛盾など新たな発見があるはずです。
 こうやって自分自身の目標を細分化して立てて行けば、イメージがより鮮明に沸いてきて、より具体的に目標が明確になり、自分の矛盾を見つけて改善し、やる気も自ずと湧いてきます。そして、「今やらなければならないこと」「今しかできないこと」「今だからできること」に対して集中し、それを継続して行くことが精神レベルの成長につながります。
分野別目標設定
 次にメンタル(心)・テクニック(技)・フィジカル(体)で自分にあった目標を明確にし、その目標を達成するための方法を確認します。
 今までに行った自己分析などを参考にして、自分の弱いところ・強いところを考えて、分野別に自分にあった目標を明確にすることが「プラス思考」につながります。
チームスポーツの場合は、チームの目標が優先されるため、個人の優先順位と必ずしも一致するとは限りません。チームの優先順位と個人の優先順位との誤差を明確にし、チーム内で積極的に意見交換を行うことで、チームと個人の誤差に、不満を漏らしたり、やる気を失ったりする「マイナス要因」を取り除くことも重要です。
大会別目標設定
 今シーズンどう闘うか計画を立てましょう。シーズンや、大会、リーグ戦などの試合に対する目標を設定し、リーグ毎、試合毎にストックしておくと、自分とチームの変化やこれからどうやって変えていくかの目標設定の資料となります。
練習記録ノート
 毎日の変化を記録することで、自分の微妙な変化を知り、シーズン中にはどういった生活をすればいいか、試合前日はどういうことをすればよいか、自分自身のペースを掴むことで、自己管理がしやすくなります。
 まずは、記載漏れを気にせず始めることが大切です。習慣がついてきたら、完璧なものに近づけていきましょう。
パターンシートの作成
 仮想や経験に基づく様々な状況における自分の対処マニュアルを書き込んだシートを作成します。また、実際に経験し対応した際の新たな発見や反省点など、気が付いたことをどんどん書き足しましょう。そうすることによって、状況判断力が備わってくるはずです。また、事前に対処マニュアルを作成しておくことで、いかなる状況下でもパニックを引き起こすことなく、冷静な判断と対処が可能になります。
セルフトーク
 心の中でつぶやいている独り言。このセルフトークを「自分は、なんてダメなんだ」→「大丈夫!自分はできる!」という感じで、「マイナス思考」から「プラス思考」に切り変えるのです。生活の中で発しているセルフトークでもプレーに影響を及ぼします。普段からセルフトークを意識していましょう。大切なのは、マイナス思考に陥ったときに、いかにプラス思考に切り替えることができるかということなのです。
実戦メンタルトレーニング
呼吸法
 呼吸は、自律神経(交感神経・副交感神経)の働きにより自動的に調節され、普段は息をしていることを全く意識をしていません。生理学的には、1分間に12〜14回くらい呼吸をしています。しかし、呼吸は、意識することで自らが調節することが可能です。つまり、呼吸を使えば自律神経に働きかけることができるのです。
 呼吸は、その文字のように“呼”と“吸”の2つの成分があります。“呼”は副交感神経を刺激し神経を沈静させ、“吸”や息を詰めたりすることは、交感神経を刺激し神経を興奮させると言われています。
 そこで、副交感神経を働かせ、普段の自分に戻す為に呼吸法を使います。最もポピュラーなのは深呼吸ですが、更に効果を高めていくならば、腹式呼吸を行うともっと気持ちは落ち着いてくるでしょう。
腹式呼吸
副交感神経を刺激し神経を沈静させ気持ちを落ち着ける時
1. リラックスできる姿勢を確保する。(普段から多様な場面を想定して見に付けておく)
2. 口からできるだけゆっくりと少しずつ息を吐き、肺の中の空気を全部外に出してしまう。
(その時、お腹がへこむようにする)
3. 鼻から大きく息を吸い込む。しっかり吐ききっていれば、ある程度は自然にすいこみます。
(その時、お腹が膨らむようにして限界まで吸い込んだら、軽く息を止める)
4. 口からできるだけゆっくりと少しずつ息を吐き出していく。
5. 吸気よりも呼気のイメージを強くもって1〜4を気持ちが落ち着くまで繰り返す。
サイキングアップ呼吸
 気持ちが乗らず、やる気が湧いてこない時、交感神経を刺激し神経を興奮させるため、呼吸を短く強く(ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!・・・・)行い、心の中で「よし!よし!よし!よし!」と呼吸に合わせて言ってみて下さい。どんどん力がみなぎってくるでしょう。
 これらの呼吸法を使って、体の生理機能をうまくコントロールしてやることで、自分の気持ちをコントロールすることができます。いろんな場面に合わせて、是非上手く活用してください。
集中力
 スポーツ・勉強・仕事などの人間活動において「集中力」は欠かすことのできない本質的能力です。何をするにも集中力を身に付けていることが重要です。この能力を身に付けコントロールし、物事の本質に集中できれば驚異的な能力を発揮することができるのです。
 特に「一点集中」は、スポーツや勉強、また、病や障害の克服などに欠かせない能力です。この一つのことに、注意を向ける意識レベルの深さと持続力が、集中力になります。レベル4まで集中している状態に至るには、「好き」「楽しい」などの感情と「やる気」などの思考が強く影響します。意識の中に抵抗(反発)がある状態では質の高い集中は望めません。例えば、「頭ではわかっていても、イライラして仕方がない状態」など思考が、感情に勝つ事はとても困難な事です。やらないといけないからと、嫌いなものを無理やっても、効果が出にくいのはこの為です。
集中の質
レベル1 気になる
レベル2 興味を持つ
レベル3 心を奪われる
レベル4 無我夢中
集中の分類
 集中には、内的集中と外的集中に分けることができます。内的集中とは、自分の体内に存在する要素に対して意識の焦点を向けること。外的集中とは、自分の周囲に存在する要素に対して意識の焦点を向けることです。集中力を発揮する際、意識の焦点をどこに向けるかは、そのときの状況によって常に変わっており、状況に応じた正しい意識の向け方を学習しながら集中することをトレーニングしていかなければなりません。
集中力をUPさせる方法
まずは、静かでリラックスできるところでスタートします。
1. リラックスした中で、身の周りにあるものの中から1つだけを選び、見ることに意識を集中しましょう。視線を一点に保ちじっと数10秒から数分見つめます。また、目標物を遠近で選び、視線を切り返えて意識を集中する練習もしましょう。この視線のコントロールは、本番での集中力を取り戻す最終手段としてお勧めします。
2. いくつかのものを目の前にならべます。すべてのものに意識をむけ、それから、徐々に集中をせばめていき、そのうちの1つだけを意識を集中させる対象として選び、そのもの自身に意識を向けます。周りの背景や、周りにある他のものからは意識を切り離し、対象としたものだけに意識を集中するようにします。
3. マークや記号など一点を集中して見つめてください。その映像の残像時間を計測することで、視野的な意識の集中力の評価も可能です。
4. リラックスした中で、身の周りで聞こえる音を聞き取り、その中から1つだけを選び、聞くことに意識を集中してください。
5. ある特定の考え(物)に意識を集中してください。それから、その意識の集中を一度中断し、次に再び意識を考えや物に戻し、集中させてください。マイナス思考が出てきたりミスに対してあれこれ考え出したりしたとき、一度その思考にストップをかけ、再びプラス思考に意識を集中させるといった思考の転換の訓練になります。
リラックスした空間の中でここまでできるようになってきたら、今度は雑音や視線など外的刺激の多いところで挑戦してみましょう。
道具を使った集中力トレーニング法
[コイン立て法]
@全種コインを用意します(666円)
Aテーブルの上でコインを立てます
B全コインを立てるまで集中します
[ボール積み法]
@テニスボールを2個用意します
Aボールにもう一個のボールを乗せます
B全神経でボールのバランスを感じます
C練習や試合前、また、仕事や勉強前に実行してください
イメージトレーニング
 自分が目標達成のためにイメージを思い描くことの大切さを否定する者はいないでしょう。この能力に磨きをかけ、思い通りのイメージを初めから終わりまでリアルに湧かせるように、トレーニングをしていきます。ストレスや雑念多くあると、せっかくトレーニングを始めても集中力に欠け、イメージが途切れ途切れになってしまい100%の効果を得ることができません。いくつかの準備段階を経て、実際の目的とするイメージトレーニングに入っていきましょう。
実践プログラム
1.心身のリラックス
思考のコントロールや腹式呼吸法などにより、脳や肉体の緊張を解き、リラックスできる環境を整え集中できる状態を作る
2.心身のエネルギーの高まりを感じる
腹式呼吸に合わせたイメージを湧かしていく
@ 体内に溜まっている「マイナス要素のエネルギー」(ストレス、不安、マイナス感情)が、息を吐くごとに体外に出ていくようイメージしながら完全に吐ききる。
A 次に、息を吸うごとに体内に「プラス要素のエネルギー」が入り、身体がどんどん元気になっていくイメージを湧かしていく。
B 息を吸うときにはAを、息を吐くときには@を交互に繰り返し、イメージが安定するまで身体のエネルギーを高めていく。
3.プレーのイメージを湧かす
1.2.の段階を踏んで、実際のプレーイメージを湧かしていく。初めは、1プレーから始め、最高のイメージを何度も頭に描く。イメージは、まずスローモーションで何回か行い、最終的に実際のスピードでイメージしていくようにすると良い。慣れてくれば最初から実際にプレーするスピードで行えるようになる。一つのイメージが描けたら他のプレーにも広げていき、最終的にはプレーを初めから終わりまでイメージできるようにしていく。

イメージをリアルに描く程、又、それを繰り返し行うほど効果が高まります。トッププレーヤーのビデオなどを繰り返し見てから、目を閉じて頭の中で再生してみるのも良い方法です。これもあくまで「トレーニング」です。初めは上手くできなくても、あきらめずに自分のものになるまで繰り返し練習しイメージを脳に記憶させてください。