インスリンは、栄養素の同化を促進して、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込みます。 |
1).糖質代謝 |
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グルコースの細胞内への取り込みを促進させます |
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インスリンは、グルコース(ブドウ糖)の細胞内への取り込みを促進させます。このインスリンの作用は、筋肉(特に、骨格筋)の筋肉細胞、脂肪組織の脂肪細胞で起こります。インスリンは、脳(視床下部を除く)、腎尿細管、胃腸の細胞には、作用しません。 |
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グリコーゲン合成を促進させます |
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インスリンは、グリコーゲン合成酵素(glycogen synthase)を活性化させ、グリコーゲン合成を促進させます。このインスリン作用は、肝臓で起こり、グリコーゲン分解を抑制し、アミノ酸、乳酸、グリセロールなどからの糖新生を抑制し、グルコース放出を抑制します。その結果、肝臓に、グリコーゲンが貯蔵されます。 |
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糖新生を抑制します |
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インスリンは、解糖系の律速酵素(調節酵素)である、グルコキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、ピルビン酸デヒドロキナーゼを誘導、あるいは、活性化させます。また、PEPCK、フルコース-6-ホスファターゼ(glucose-6-phosphatase)の転写を抑制し、糖新生を抑制します。 |
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注 |
PEPCK(phosphoenolpyruvate carboxykinase)は、糖新生の際に、オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸にする際の、重要な律速酵素です。
インスリンは、PEPCKの発現を抑制し、糖新生を抑制します。
ステロイド受容体ファミリーのPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor
γ)は、PEPCKの転写を促進し、糖新生を促進させます。
糖尿病改善薬のthiazolidinedioneは、PPARγと結合します。 |
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インスリンは、骨格筋で、ヘキソキナーゼ(hexokinase U)を活性化させ、解糖系を促進します。インスリンにより、グルコースは、グリコーゲンとして筋肉や肝臓に貯蔵されます。また、解糖系が促進され、中性脂肪として脂肪組織に貯蔵されます。糖新生は抑制されます。 |
2).蛋白質代謝 |
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蛋白質合成を促進させます |
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インスリンは、骨格筋に作用して、アミノ酸の細胞内への取り込みを増加させて、蛋白質合成を促進させ、蛋白質の異化を抑制します。 |
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注 |
インスリンは、BCAAの骨格筋への取り込みを促進しますが、脳内の神経伝達物質の前駆体になる、芳香族アミノ酸(aromatic
amino acids:AAA)の取り込みには、あまり影響しません。 |
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3).脂質代謝 |
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脂肪分解を抑制します |
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インスリンは、脂肪分解(lipolysis:中性脂肪の分解)を抑制します:
インスリンは、脂肪組織、肝臓で、PDE(ホスホジエステラーゼ)を活性化させ、cAMPを5'AMPに異化させることで、cAMP濃度を減少させ(細胞では、グルコース濃度が低下すると、cAMP濃度は、上昇します)、ホルモン感受性リパーゼの活性を抑制します。
インスリンは、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の合成は、促進させます。
インスリンは、細胞膜表面のLDL受容体の活性を高める作用があると言われています。
インスリンは、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(acetyl-CoA carboxylase:脂肪酸合成の律速酵素)、HMG-COA還元酵素(HMG-COA
reductase:肝臓におけるコレステロール生成の律速酵素)を活性化させ、脂肪酸やコレステロール合成を高めます。 |
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糖尿病で、インスリンが欠乏すると、ホルモン感受性リパーゼにより脂肪分解(lipolysis)が起こり、脂肪組織で中性脂肪が分解されて、遊離脂肪酸(FFA)とグリセロールが、血中に遊離され、高FFA血症になり、体重は減少します。
この他に、高VLDL血症(IV型高脂血症)・高LDL血症(高コレステロール血症)・高TG血症(高中性脂肪血症、高トリグリセリド血症)なども、糖尿病時の脂肪組織の分解が原因と考えられています。
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インスリンで、代謝が大きく変化する組織は、筋肉(骨格筋、心筋)、脂肪組織、肝臓の3種です。肝臓では、細胞内と細胞外のグルコース濃度は、ほぼ、等しい:肝臓では、糖輸送担体(GLUT2)が細胞膜上に存在しているため、細胞内へのグルコース取り込み量は、インスリンの作用に依存していせん。しかし、インスリンは、肝臓でグルコキナーゼ(glucokinase)を活性化させ、間接的にグルコースの肝臓への取り込みを増加させます。一方、肝臓は、糖新生によりグルコースを血中に供給します。
糖尿病では、グルコースの細胞内への取り込みは十分でなく、結果として、エネルギー源は、脂肪酸に依存しています:糖尿病では、飢餓状態と同様に、脂肪酸にエネルギー源を依存しています。インスリンには、Na+,K+-ATPaseを、細胞質から細胞膜にトランスロケーションさせる作用があるといわれています。インスリンは、Na+/H+チャネルを開放し、Na+が細胞内に、H+が細胞外に、受動輸送されるという説もあります(細胞内Ca2+は、増加し、細胞内pHが、アルカリに傾くという)。しかし、インスリンが、Na+,K+-ATPaseの発現を増加させ、細胞内Na濃度が減少した結果として、Na+/H+交換輸送体が開放され、Na+が細胞内に受動輸送されるものと思われます。インスリンは、NO(一酸化窒素)を介して、血管を拡張させるといわれています。 |